ひじき、あぶらげ

今年二回目の歌舞伎見物。
http://www.ntj.jac.go.jp/performance/8.html
早めに家を出て九段下でチケット忘れたことに気がついた。忘れたチケットの再発行がスムーズだったとネット上に書いてあったよな、と怪しくも薄い記憶だけを頼りにチケット売り場へ。幸い  あぜくら会のチケットだから前回と同じ席なので、席番号と購入者のデータだけは覚えていたのでスムーズに入場。システムが非常に洗練されていて感激する。
ついでだが、歌舞伎ってチケット高いような気がしていたが、国立劇場のチケットは12000円〜1500円と高い席と安い席に10倍近い差がある。このシステムも非常に結構と思う。昨今はアングラ演劇でも3000円4000円は当たり前だし、歌舞伎座も幕間はお安いが一幕分しか見られないのに、国立劇場はその日の演目全部見てのお値段だから庶民も歓迎なのだ。

前回の演目は平家物語だったので時代劇っぽい作風だったけれど、今回は江戸時代の世話物で言葉も風俗も大変解りやすくて面白かった。少なくとも成立当時は現代劇だった訳で風俗が生き生きしていて大変面白い。


「その手は桑名の焼き蛤」的な冗句がたっぷりで、丁度膝栗毛を読んでる最中なので、いつもより多めに笑うことが出来てタイミング的にもよかったと思う。
今まで落語家が蕎麦をすするのを上手だなあと思っていたが、役者の方がずっと上手。
実際に蕎麦を食べてる人、というのは今まで無数に見てきたが、役者が食べるのは全然違う。
凄い音を立てて凄い勢いで蕎麦をすする姿にうっとりである。華麗ささえ感じる。江戸庶民の粋の技術であろう。
膝栗毛にも江戸っ子だから気がつえゑっていう啖呵は随所に出てくるのだが、誰よりでかい音立てて蕎麦をすするのも江戸っ子の美徳だったのであろう。冷静に考えるとそんなのすごいくだらないことだけど、文化っていうのはくだらないことが8割だと思えばそれも納得。

江戸っ子だってね。蕎麦食いねえ。江戸っ子だったらでかい音立てて蕎麦をすすれ。出来ねえ奴はうどんでも食べてろ。



ひじき、あぶらげ、というのは劇中幸四郎演じる河内山のセリフ。
ひじきやあぶらげみたいなつまらないものばっかり毎日食べてるから馬鹿なんじゃん。おいらなんか贅沢なものをたっぷり食べているから貴様らとは頭の作りが違うのだ、と見栄を切る。金の無心に行って断られた後の捨てぜりふだからなおさら可笑しい。
その後もなんかといえばひじき、あぶらげとつぶやいて退場する。そういう時のぼそっと力の抜けたところがスターっぽくて素敵だった。人気役者はこういうところがなによりも大事かと思う。
なんかつーとオーガニックとかエコロジーとか言い腐る輩をこっそり罵倒する言葉として有り難く頂戴しておこう。


染五郎演じる直次郎って奴が典型的に金と力のない色男で、こういうやつがいないと歌舞伎じゃないよねっていう位の素敵な与太者。おいらの脳内にも陳腐なオンナゴコロが多少残留していて、帰りに売店染五郎の手拭いがちょっと欲しいような気持ちがしたけど、こんなの買って帰ったら一生の不覚と思い直して売店を後にした。
オノレはそんなことしちゃいけないと思うけれど、それも歌舞伎のお楽しみのひとつであるなあと他人事としては理解した。


今回は芝居の匂いを強烈に感じることが出来た。
役者がそばをすすると鰹のだしの香りがぷーん、とか、
香を焚けば瞬時にまったりしたええ匂いが漂ったり。
最前列というのは国立劇場においては必ずしも一番見やすい席だという訳ではないんだけど(個人的にはすみっこでも、ガラガラの映画館でも最前列が好き)匂いが鮮烈にに来るお席には改めて感動した。
芝居で嗅覚を刺激されるというのは初体験(アングラの頃に悪臭漂うという経験はあったけれど)だったので帰り道お腹が減って渋谷で中華など。
今年(多分)最後の北京ダックなど頂いてチョコレート買って帰宅。